[連載]ラッシュリフトを科学する 05[膨潤と変形]

この記事をシェアする
[連載] ラッシュリフトを科学する 05[膨潤と変形]

第5回テーマ 「膨潤と変形」

←第4回 ラッシュリフトを科学する[ラッシュリフト剤の構成]はこちら

前回は、ラッシュリフト剤が「化粧品」という分類であること、そして医薬部外品であるヘアパーマ剤とは主成分の配合濃度や作用の強さが異なるために、ヘアと同じ物差しでは分析が難しい――というところまで整理しました。そのため、本コラムでは清水さんの体感値(経験値)をベースに進めていくことをご案内しました。

前回の最後にお伝えした通り、今回はいよいよ、親水性(S1)・疎水性(S2)と薬剤の関係に踏み込んでいきます。すると、これまで現場で“感覚”としてしか語られてこなかった、ある大事なことの正体が見えてきます。

1.S1・S2と薬剤 ―― 「上がる/上がらない」の話

Beaute記者

前回、パーマ材の基本を整理して、「還元剤とS1・S2が主に関係する」というところまで来ました。今回はその続きですね。

三倉さん

はい。まず、S1・S2のおさらいから。第3回で、紙コップにまつ毛を浮かべる実験をしましたよね。水に沈む親水寄りの毛がS1、浮いてくる疎水寄りの毛がS2。この「毛質の違い」に対して、薬剤――なかでも還元剤が、どう効くのか。ここが今回の入り口です。

清水さん

還元剤はシスチン結合を切って、まつ毛を上げる役割ですね。ひと口に還元剤といっても、実は種類がたくさんあります。チオグリコール酸アンモニウムやチオグリコール酸MEA、チオグリセリン、システアミン、システイン……それぞれ「還元力の強さ」や「働きやすいpHの領域」が違っていて、S1寄りの毛に効きやすいもの、S2寄りの毛まで届きやすいもの、という特徴の差があります。

清水さん

三倉さん

ここが面白いところで、ラッシュリフト剤って、こうした還元剤を1種類だけ使っているわけではないんですよね。

清水さん

そうです。多くの製品は、複数の還元剤をミックスしています。強さやpH領域の違う還元剤を組み合わせることで、狙った効き方に近づけています。しかも、還元剤だけではありません。pHを上げて反応を助けるアルカリ剤も複数の種類があって、その組み合わせも仕上がりに関わってきます。

三倉さん

前回、化粧品分類ゆえに中身の成分構成が製品ごとにかなり違ってくる、外から読み解くのが難しい、というお話をしましたが、その”読み解きにくさ”の正体が、まさにこれなんですね。

清水さん

はい。だから、外から成分表示を見た際、ある程度の傾向は読み取れますが、どんな効き方をするのかまでは読み取れません。最後は「実際に使ってどうか」という経験値で判断することになります。

三倉さん

その前提を踏まえた上で、一つ、私なりに持っていた仮説があります。いろいろ複雑ではあるけれど、まつ毛って、基本的には「S1さえ切っておけば上がる」ものなんじゃないか、と。これは合っていますか?

清水さん

大筋では合っています。だいたいのまつ毛は、S1をしっかり切ってあげれば、ちゃんと上がります。

三倉さん

ですよね。多くのケースでは、S1を切ることを考えていれば、仕上がりは出せる。

でも、S1だけでは上がらない毛がある

清水さん

ただ……“だいたい”になります。S1だけでは切れない、上がりにくいまつ毛が、確かに存在します。

三倉さん

紙コップの実験で、水に浮いてきた、あのS2寄りの毛ですね。

清水さん

そうです。S2寄りのまつ毛は、S1を切るだけのアプローチでは切れにくくて、十分に上がってくれない。しっかり上げようとすると、また別の考え方が必要になります。

三倉さん

同じ薬剤を使っても、その人の毛質次第で、効き方がまるで変わってしまうということですね。

清水さん

はい。だから、S1・S2を無視して「この薬剤ならこう」とは言い切れないです。

「上がるかどうか」と「質感」は、別の話

三倉さん

それで、ここからが今回いちばんお話ししたいところなんです。実は私、清水さんと話していて、ずっと引っかかっていたことがあって

Beaute記者

引っかかっていたこと、ですか。

三倉さん

パーマがかかる本質って、いま話したS1・S2のシスチン結合を切ることですよね。でも一方で、現場では「ふわっと仕上がった」「パキッと仕上がった」っていう言い方をよく聞きます。この“質感”の話が、シスチンを切る・切らないの話と、どうも別の軸に思えて仕方なかったんです。

清水さん

いい引っかかり方だと思います。実はそれ、別の話です。「まつ毛が上がるか・上がらないか」と、「ふわっと仕上がるか・パキッと仕上がるか」は、まったく違う仕組みで起きています。

三倉さん

やっぱりそうなんですね。同じ「上がった」まつ毛でも、ふわっとしたものと、パキッと硬いものがある。あの違いは、シスチンを切る・切らないだけでは説明がつかない。

「ふわっ」「パキッ」の正体 ―― 膨潤と変形

三倉さん

この「ふわっ」「パキッ」という言い方、実は私が現場のアイデザイナーさんたちにヒアリングしていく中で、みなさんが口々に使っていた表現です。でも、みなさん仕上がった結果を擬音で言い表しているだけで、その先まで考えている方は、まずいませんでした。

清水さんは、そこを説明できるんですよね。

清水さん

はい。あの質感は、まつ毛に起きている2つの変化の組み合わせです。一つが「膨潤」、もう一つが「変形」。膨潤は、主にアルカリ剤の働きで、まつ毛の水分量が変わること。変形は、還元剤の働きで、まつ毛の形状そのものが変わること。この2つが合わさって、あの「ふわっ」「パキッ」として感じられているんです。

三倉さん

なるほど。ここは整理させてください。つまり――

三倉さん

  • 膨潤 = アルカリ剤 = まつ毛の水分量が変わる(膨らみ・うるおいの感じ)
  • 変形 = 還元剤 = まつ毛の形状そのものが変わる

還元剤が「形」を作り、アルカリ剤が「水分・膨らみ」を担当している。前回、清水さんが「還元剤だけでなくアルカリ剤の設計も大事」とおっしゃっていましたが、その意味がここでつながりました。「ふわっ」の“ふわ”の部分は、まさにアルカリ剤=膨潤側の仕事だったんですね。

清水さん

その通りです。還元剤だけを見ていても、質感は説明できないんですよ。

三倉さん

これは大きいと思います。今まで擬音でしか語られてこなかった「ふわっ」「パキッ」が、膨潤と変形という2つの仕組みに分けられた。こう整理すると、薬剤がまつ毛に対して“何をしているのか”が、一気に見えてきます。

Beaute記者

擬音の正体が、膨潤と変形の組み合わせだったんですね。

三倉さん

清水さんの頭の中では、ずっとこれが見えていた。それを言葉にすると、こうなる、ということですね。

薬剤を突き詰めるほど、毛質に行き着く

三倉さん

ただ、ここまで整理してきて、あらためて思うことがあって。膨潤と変形で「薬剤が何をしているか」は見えてきました。でも、じゃあ薬剤さえ決めれば仕上がりが決まるかというと、そう単純な話ではないと思うのです。

清水さん

そうです。さっきのS2の毛の話に戻りますが、同じ薬剤でも、相手の毛質によって効き方が変わる。特に――これは現場で強く感じることなのですが、年齢を重ねた方のまつ毛は、S2寄りの毛が多くなっているケースがあります。

三倉さん

そうなると、「S1だけ切れば上がる」という前提も、「この薬剤ならこの質感」という考えも、毛質次第では成立しない。(上がらない)結局、薬剤の話をどれだけ突き詰めても、最後は「その毛が、どういう毛なのか」を見極められないと、仕上がりはコントロールできない。

清水さん

はい。薬剤を語りきるには、受け手であるまつ毛の“毛質”を語らないといけません。

Beaute記者

では次回は、その「毛質の見極め」に踏み込んでいくのですね。

三倉さん

はい。特に、いま清水さんがおっしゃった「年齢を重ねたまつ毛」の話は、多くのアイデザイナーさんが現場で必ずぶつかる壁だと思います。次回、じっくり掘り下げていきましょう。

― 続く ―

必要知識 | 還元剤とS1・S2

まつ毛を上げる主役となるのが「還元剤」です。還元剤はシスチン結合を切断し、カールをつくる働きをします。ただし、還元剤はひとつではありません。数種類が存在し、それぞれ「還元力の強さ」や「働きやすいpHの領域」が異なります。そしてその特性の違いによって、S1寄りの毛に効きやすいもの、S2寄りの毛まで届きやすいものに分かれます。

主な還元剤を、還元力の強さと働きやすいpHで整理すると、下の表・図のようになります。なお、還元力の強さは、チオグリコール酸アンモニウムを「10」とした場合の相対値です。これは一般的な考え方をもとに、清水さんの体感値を参考にマッピングしたものであり、絶対的な数値ではありません。本コラムは、こうした体感値をベースに議論を進めています。

主な還元剤

還元剤 還元力の高さ 働きやすいpH
チオグリコール酸アンモニウム 10(強い) 高め
チオグリコール酸MEA 8〜9 高め
チオグリセリン 5~6 高め
システアミン 5~6 低め
システイン 3〜4(おだやか) 低め

pH活性領域マトリクス

ポイントまとめ

還元剤には複数の種類があり、それぞれ還元力の強さと働きやすいpHが異なります。ラッシュリフト剤は、こうした還元剤を複数ミックスしているケースが多く、さらにアルカリ剤の種類や組み合わせも加わります。この組み合わせの多さが、薬剤ごとの個性を生み、同時に「外から読み解きにくい」理由にもなっています。

膨潤と変形 ―― 「ふわっ」「パキッ」の正体

仕上がりの質感を、現場では「ふわっ」「パキッ」と擬音で表現します。この質感は、まつ毛に起きている2つの変化――「膨潤」と「変形」――の組み合わせで生まれています。

変化 担当する薬剤 まつ毛に起きること
膨張 アルカリ剤 水分量が変化する(膨らみ・うるおいの感じ)
変形 還元剤 形状そのものが変化する(カールの形)

※見た目の膨潤感が感じられるのは、施術後おおよそ1〜2日程度とされます。

ポイントまとめ

「ふわっ」「パキッ」という質感は、膨潤(アルカリ剤による水分量の変化)と、変形(還元剤による形状の変化)の組み合わせです。還元剤だけを見ていても質感は語れず、アルカリ剤の働きまで含めて初めて、薬剤が「何をしているか」が見えてきます。

S1・S2と“上がりやすさ”

パーマがかかる本質は、S1・S2のシスチン結合を切ることです。多くのまつ毛は、親水寄りのS1を切ることで上がります。一方で、疎水寄りのS2の毛は切れにくく、十分に上がりにくい傾向があります。

毛質 紙コップ実験での様子 上がりやすさ
S1(親水寄り) 水に沈む 多くはS1を切れば上がる
S2(疎水寄り) 水に浮く 切れにくく、上がりにくい

また、年齢を重ねた方のまつ毛には、S2寄りの毛が多くなっている傾向があります。「上がりにくい」と感じるケースの背景には、この毛質の違いがあると考えられます(詳しくは次回・第6回で掘り下げます)。

ポイントまとめ

「上がるかどうか」を左右するのがS1・S2という毛質、「ふわっ・パキッ」という質感を左右するのが膨潤と変形です。この2つは別の軸であり、混同すると仕上がりが読みにくくなります。そして、同じ薬剤でも毛質によって効き方が変わるため、薬剤を語りきるには“毛質”を見なければなりません。

この記事の連載記事

この記事をシェアする