[連載] ラッシュリフトを科学する 04[ラッシュリフト剤の構成]
第4回テーマ 「ラッシュリフト剤の構成」
←第3回 ラッシュリフトを科学する[毛の性質(親水性・疎水性)]はこちら
Beauté記者
前回、紙コップの実験を紹介し、親水性(S1)、疎水性(S2)の話をしました。このあたりを語るには、パーマ剤の基本情報が必要ということでしたね。
三倉
はい、今回はその整理をしていきましょう。まずはこちらをご覧ください。パーマ剤の概要図です。
1剤は「還元剤・アルカリ剤・安定剤・その他」など、いろいろ入っています。様々な薬剤が入っており、メーカーさんが研究して成分を組み上げています。なお、親水性(S1)、疎水性(S2)と主に関係するのは「還元剤」になります。
清水さん、この理解で大丈夫ですか?

清水
はい、パーマ理論としてはその通りです。本当にさまざまな成分が入っています。メーカーさんは試行錯誤を重ねながら成分設計をしています。
そして、以前はロッド選定やデザインばかりに注目が集まっていましたが、最近は感度の高いアイデザイナーさんを中心に「なぜ上がるのか」「なぜかかるのか」というケミカルの部分に興味を持つ方が増えてきています。薬剤を理解しようという流れが業界全体で少しずつ強くなってきている印象ですね。
三倉
そうですね。最近、ケミカルも勉強されているアイデザイナーさんがインスタで流れてきます。技術って知識の上に成り立ちますからね。
あと、還元剤だけでなく、pHについても気になります。pHの高い低いによって大きな影響があるのでしょうか?

清水
製品開発の際に試行錯誤しましたが、0.2pHの単位で目視でわかるくらい変化が起こります。さらに、還元剤の組み合わせ・アルカリ剤の組み合わせ・さらには安定剤などの組み合わせも関係します。単純にpHが高い、低いだけでは評価できないと思います。
Beauté記者
ありがとうございます。やはりメーカーさんが試行錯誤して作り上げてきたものですよね。
三倉
個人的に重要だと思う点があります。ラッシュリフト(まつ毛カール)剤は化粧品分類ですよね。この点を把握している方は少ないと思います。
ここが分析を難しくしているポイントだと思います。ざっくり言うと、ヘアパーマ剤で主流となる医薬部外品は「医薬品ほど強くはないけれど、ある程度の効果が国に認められたもの」。一方で、化粧品は「清潔にする/美しく見せる/すこやかに保つ」ためのもので、作用は緩やかが前提です。
つまり化粧品の世界は、そもそも「効く/効かない」でスパッと評価しにくい。効果を強く出すより、安全にコントロールする設計になりやすいので、単純に還元剤だけで語れないんですよね。
清水
はい、その通りです。目元に使う前提なので、安全設計が最優先になります。還元剤だけでなく、アルカリ剤、pH調整や安定化、反応の出方の調整など、いろいろな設計要素が絡んできます。
それに、医薬部外品と化粧品では、そもそも薬剤の作り方の仕組みが違います。ヘアパーマ剤のような医薬部外品は、国が成分や処方を事前に審査して認める仕組み。一方で化粧品は、決められた範囲の中で、メーカーが責任を持って自由に成分を組み合わせられる仕組みです。
だから化粧品分類のラッシュリフト剤は、処方の自由度が高く、製品ごとに中身がかなり違ってきます。

三倉
なるほど。しかも化粧品は、成分名は表示されていても濃度の記載がありません。だから配合バランスや狙っているpHまでは分からない。仕組みも違えば中身も見えない。
結果として、ヘアの世界と同じ物差しでラッシュリフト剤を分析するのは難しい、ということですね。
清水
はい、そうなりますね。また、まつ毛は解明されていないことが多すぎます。大学の先生と研究していますが、ヘアとまつ毛では違いがたくさんあります。
なので、ヘアの世界のように今すぐ技術を体系化していくのは難しいと思います。
Beauté記者
なるほど。ここがまつ毛業界の課題かもしれません。
三倉

それで、体系化の第1歩として重要なのは体感値で傾向を分析するのが有効だと思いました。数値判断の手前ですね。アイデザイナーさんに協力してもらいアンケートを取ったのですが、体感値のばらつきが激しいのも課題です⋯。
統一された測定基準に基づき、同一の評価者による測定をしていかいないと、難しいと思いました。
Beauté記者
ここまでの話を聞いて、基準を作るのは難しいと感じました。先は長そうですね。とはいえ、今できることをしていきたいです。
三倉
そうですね。このコラムでは清水さんの体感値(経験値)をベースに議論を進めましょう。科学的分析も進めたいが、業界としてまだ難しい。
清水
むしろこのコラムがきっかけで、業界でそういう動きができるといいですね。
三倉
話が膨らみすぎました。少しまとめます。
ラッシュリフト(まつ毛カール)剤の基本
- 還元剤・アルカリ剤が基本
- いろいろ混じっている
- 化粧品分類
- 薬剤特性だけの数値判断は難しい
この基本を前提に、清水さんの経験値でお話を進めていきましょう。
清水
はい、そうですね。そんな流れでいきましょう。
三倉
次回は再度、親水性(S1)、疎水性(S2)の薬剤特性に清水さんの経験値ベースで話していきましょう。
― 続く ―
必要知識 | パーマ剤の構成要素
パーマ剤は「1剤」と「2剤」に分かれており、それぞれに複数の成分が含まれています。それぞれに役割があり、毛の中の「結合」に対して順番に作用します。

1剤の主な成分
| 成分 | 役割 |
|---|---|
| 還元剤 | シスチン結合(S-S)を切断する |
| アルカリ剤 | pHを上げて塩結合を切断し、還元剤の浸透を助ける |
| 安定剤 | 還元剤の品質を保つ(還元剤が空気中の酸素で変質・劣化するのを防ぐ) |
| その他 | pH調整剤・保湿剤・香料など |
2剤の主な成分
| 成分 | 役割 |
|---|---|
| 酸化剤 | 切断されたシスチン結合を再びつなぎ、カールを固定する |
| 安定剤 | 酸化剤の品質を保つ |
| その他 | pH調整剤・保湿剤・香料など/td> |
ポイントまとめ
パーマ剤には「還元剤・アルカリ剤・酸化剤」という主要3成分に加え、安定剤やpH調整剤など多くの成分が含まれています。これらの組み合わせや配合バランスが、薬剤の仕上がりや反応の出方に大きく影響します。
パーマの仕組み
第1回コラムで触れたパーマの基本を、改めて整理します。

▲パーマのプロセス(①最初の状態 → ②巻きながら切断 → ③再結合で固定)
パーマは3つのステップで進みます。
- 最初の状態 毛の中に「水素結合」「シスチン結合」「塩結合」「ペプチド結合」があります。これらが毛の強さや形を支えています。
- 巻きながら切断(1剤) 還元剤がシスチン結合を切断し、アルカリ剤がpHを上げて塩結合を切断します。毛が柔らかくなり、ロッドの形に沿って変形します。
- 再結合で固定(2剤) 酸化剤が切断された結合を再びつなぎ、カールが固定されます。

▲1剤・2剤の成分と結合の対応
ポイントまとめ
1剤が「切る」、2剤が「つなぐ」。この2ステップがパーマの基本です。詳しくは第1回コラム「まつげの構造」もあわせてご覧ください。
医薬部外品と化粧品の違い
パーマ剤は法律上、「医薬部外品」と「化粧品」に分類されます。この分類の違いが、薬剤の設計や処方の考え方に大きく影響しています。
| 分類 | 位置づけ | 代表例 |
|---|---|---|
| 医薬部外品 | 医薬品ほど強くはないが、ある程度の効果が国に認められたもの | ヘアパーマ剤 |
| 化粧品 | 清潔にする/美しく見せる/すこやかに保つためのもの。作用は緩やかが前提 | ラッシュリフト剤 |
| 分類 | 成分の決め方 |
|---|---|
| 医薬部外品 | 承認された成分・処方の範囲内に限定される |
| 化粧品 | 禁止成分(NGリスト)に該当しなければ、自由に配合できる |
※この仕組みが、ラッシュリフト剤の成分構成を外から読み解くことを難しくしています。
化粧品には「全成分表示義務」があり、配合されているすべての成分名を記載することが法律で定められています。配合量が多い順に記載するルールですが、配合量1%以下の成分は順不同で記載してよいことになっています。
そのため、成分名は確認できても、配合バランスや狙っているpHまでは把握できません。これが、ラッシュリフト剤の分析をさらに難しくしている理由のひとつです。